コロナ禍でステイホームなので、相変わらずレンタル映画を見ています。時々駄作に出会い、時々傑作に出会います。この「バクダッドカフェ」は中近東の物語ではなく、アメリカのネバダ州あたりの人里離れたとこある「バクダッドカフェ」という名前の、ガソリンスタンドとモーテルとレストランを兼ねた場所に、集まる人々のストーリーでした。これは傑作の一つだと思いました。日本では1990年代に公開されて人気が高かったようです。その時は見ていませんが、映画の名前は記憶に残っていました。主人公は、夫とアメリカ旅行中に喧嘩別れしたドイツ人婦人と、これまた夫と別れた「バクダッドカフェ」の黒人女主人です。映画に登場する人々は、社会の中ではマイナーな人々ばかりです。しかし、映画が進行するにしたがって、こうした見捨てられたような人々のなかに、不思議なケミストリー(化学反応)が生じていきます。それは、友情だったり、才能の開花や、喜びと希望だったりします。寂しかった人々のあいだに笑い声が響き渡ります。そして、いつか視聴者であったわたしたちも、そのストーリーのなかに巻き込まれ、気が付くと、登場人物たちと一緒に、喜怒哀楽を共にしていることを発見するのです。映画のマジックです。多くのハリウッド映画のように莫大な予算を使って、爆薬を使い、CGを使い、有名俳優を使い、大勢のエキストラを使い、巨大なセットを使ったものではありません。極めて低予算です。荒野の一軒家に等しい「バクダッドカフェ」だけが舞台です。しかし、これほど、さまざまな人間模様をとおして、人間にとって何が大切なのかを感じさせ、心を温かくしてくれる作品は多くはないでしょう。