閑話休題

新一万円札が祝儀には不適切だという迷信

日本はまだ迷信の国です。迷信とは、迷って信じることであり、根拠のない信仰です。この迷信に対して、文明開化を信じて挑戦したのが、以前の一万円札の福沢諭吉でした。わたしが大分県別府市のルーテル教会の牧師をしていたころ、中津市にある諭吉の生家を訪ねたことがありました。そこに掲示してあった説明を読むと、諭吉は幼少のころから迷信が嫌いで、近所の祠に収められている「ご神体」というものを暴露してまわったそうです。当時の迷信では、ご神体を汚すものは祟りを受けると言われていました。しかし、諭吉が暴露した「ご神体」というものは、たんなる石ころにすぎなかったようです。もし、祟りの迷信が真実ならば、彼は日本の歴史に残るような業績を打ち立てなかったことでしょう。さて、今回の一万円札の渋沢栄一はどうでしょうか。彼の経営者としての手腕はよく知られています。しかし、女性関係が乱れていたことが問題とされているようです。ですから、結婚のお祝儀には不適切だという理屈がうまれています。その気持ちはわからなくもありません。日本人の持つ潔癖性があらわされているように思います。では、海外の紙幣はどうでしょうか。アメリカの50ドル紙幣に印刷されているグラント将軍(北軍)はスキャンダルや汚職でアメリカ史上最悪の大統領としてて知られているそうです。20ドル紙幣に印刷されているアンドリュー・ジャクソンはどうでしょうか。彼にもスキャンダルがありました。ウィキペディアから引用すると、このように書かれています。「彼はルイス・ロバーズが離婚手続きを終えたと聞いた後にレイチェル・ロバーズと結婚した。しかし、実際にはまだ離婚が成立していなかったためにこの結婚は無効となった。離婚手続きを正式に終えた後、1794年にジャクソンとレイチェルは再び結婚した。複雑なことに、提示された証拠は離婚の申し立てをする前にレイチェルがジャクソンと同居して「ジャクソン夫人」と呼ばれていたことを示している[11]。しかし、このようなことはフロンティア社会においてはしばしば起こることであり、珍しいことではなかった」つまり、ジャクソンはたぶん人妻と知りながら結婚してしまったのです。渋沢栄一の女性関係の場合にも、現代の常識では絶対不可ですが、「しかし、このようなことはフロンティア社会においてはしばしば起こることであり、珍しいことではなかった」という歴史的な見方をするのが妥当ではないでしょうか。さらに、もう一つ言えることがあります。聖書のなかにこう書いてあります。姦通の罪を犯した女を石打の刑で殺そうとする人々に対するイエス様の言葉です。「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい。」(ヨハネ福音書8:7)これを聞いた人々は、一人、また一人と現場を去っていったそうです。イエス様は女に「もう罪を犯さないように」と諭して、終わっています。つまり、日本人の潔癖症は、二千年前のユダヤ人のように「自分は正しい」という迷信の上に建てられた、いわば砂の上の城なのです。自分の内面を顧みず、歴史の中で人々が苦悶してきた姿を見向きもせず、自分の勝手な善悪判断や世間の風評によって影響を受けやすい性質のことです。わたしたちも「学問のススメ」に従って、無意味な迷信は捨てていきたいものです。一万円札も大胆に使っていきたいものです。

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