「あなたは清い」 ヨハネ１５：１－１０
今日の日課にイエス様がブドウの木であると書いてあります。実を結ばない枝は剪定されて取り除かれるのです。皆さんはブドウの花を見たことがあるでしょうか。小さな目立たない花です。
さて、豊かに実を結ぶというのは、立派なクリスチャンとして生きることでしょうか。反対に、自分は実を結んでいないと思う人は、神の裁きと罰を受けて、苦しみながら死んでいく運命なのでしょうか。不安があります。はたして神は、何を根拠にして、実を結んでいる枝か、実を結ばない枝かを判断するのでしょうか。ある牧師はこのたとえについて、「私はもともとこのような言葉が好きではありませんでした」とまで言っています。確かにそうです。ある面で、この部分は、役に立たない人は捨てられる運命にあるように聞こえるからです。
しかし、実は、ここでは人間が神の前で何をしてきたか、何をしているか、という行いの問題が問われているのではありません。それは世の終わりの時の問題です。聖書には、「神はおのおのの行いに従ってお報いになります」（ローマ２：６）と書いてあります。これは、信仰による義と反対のように見えます。ただ、信仰によって義とされ、正しい行いを可能にしてくださるのも神なのです。「だれが神に選ばれた者たちを訴えるでしょう。人を義としてくださるのは神なのです。」（ローマ８：３３）と書いてある通りです。つまり、神が認めてくださる行いは、わたしたちが自分で考える善い行いではない。信仰から生まれたものだけなのです。奇跡を起こしても、神からのものでなければ空しいのです。
外面的な行いが神の判断の対象ならば、わたしたちのほとんどは剪定されて捨てられてしまうでしょう。実を結ぶこととは、「キリストを信じる信仰によって生まれかわり、律法を行うことができるようになること」だとルターは説いています。キリストに結びつくことで神に喜ばれる行いが生まれます。ですから、この部分は、役に立たない人は捨てられる運命にある、という意味ではありません。優れた農夫が、無駄な枝を排除して豊かな実りを木に与えるように、神さまご自身が、優れた農夫のように、無駄な枝を容赦なく取り除いてくださり、わたしたちが実を結ぶ木になれるように世話してくださるということです。
わたしが前任地の八王子教会に赴任した当時、教会の入り口の前に植えてある山茶花が茶毒蛾の温床になっていてひどい状況でした。木の下に立っただけでかぶれました。ある役員会で、この木を切ってしまって、代わりにクリスマス用のモミの木を植える提案をしました。皆賛成しました。しかし、季節になると、きれいな花を咲かせる木を見ると可哀そうで切る気になれません。どうしようかと悩んでいると、良い考えが浮かびました。そうだ、茶毒蛾がつくのは、枝が密に茂りすぎていて、鳥が毛虫を食べていく隙間がないからだ。そこでかなり剪定して、太い枝が見えるくらいにしました。それからは、一度も茶毒蛾は発生していません。剪定の大切さを実感しました。
イエス様は剪定が大切なことを教えています。剪定とは、役に立たない人間、罪深い人間を切り捨てることではありません。むしろ逆です。生かすのです。せっかく良い花を咲かせ、おいしい実を実らせる性質をもっていながらも、害虫に犯され、病気がつき、サタンの力に影響されて、マイナスの毒しか出ていない人間の状況があるのです。それは、誰のことでしょうか。わたしたちほとんどの、人間の問題です。疲れた、つらい、面倒だ、退屈だ、ただ目的もなく忙しい、悔しい、腹が立つ、不満と欲望しかない、そういうマイナス症状をガラテヤ書５章では罪の実と言います。
おそらくブドウにもそういうマイナスしか出ない現象が起こるのでしょう。イエス様はそれを言いたかったのでしょう。ちなみにイエス様の故郷のナザレの隣町は婚宴の葡萄酒で有名なカナンです。イエス様はブドウ栽培を知っていたとおもいます。環境がよく、水や肥料が多く、全く剪定しないと、葉だけ茂ります。ブドウは剪定しなくてもダメ、剪定しすぎて花芽のある枝を切ってしまってもダメだそうです。人間も自分の力に頼っていると神の実をつけてない。自分の葉を茂らせているだけです。神への自己流の信仰なのです。ただ、人間には、誰でも、「若いときは行きたいところへ行っていた」という傾向があるものなのです。まだ、自分の無駄な枝が選定されてない状態はしかたないのです。
本当に実をつけるということは神に清められることです。３節に、イエス様の言葉によって、それを聞く者は既に清くなっていると宣言されています。清くなるというのは手入れがなされていると同じ意味です。これから、立派な行いをして、認められて、清いと認定されなさいという、命令ではなない。これを誤解してはいけない。「あなたはすでに清いんだ」という宣言です。ここに福音があります。今日も語られている福音です。「あなたは本当に清い」そのとき、実を結ばない枝の存在を神は知らせてくださるのです。自分でこれを、捨てることはできなかった、しかし、神ご自身が手入れをしてくださる。それは人生の試練とも感じられるかもしれない。試練を経て、あなたはもっと生産的になれる。あなたはもっと、奉仕を喜ぶことができる。あなたは、神のためにささげることが苦にならなくなる。この宣言をアーメンと受け入れるのは、まさに信仰です。
清められていることを信じる信仰こそ、実を結ぶ枝です。「神が清めたものを清くないなどと言ってはならない」（使徒１０：１５）実を結ぶためには、イエス様に、「つながっている」ということで十分です。ギリシア語言語では、「つながる」とは「わたしの中に宿る」キリストの中に生きることです。教会に来ているだけで十分です。ある人はキリストの中にわたしが宿り、わたしの中にキリストが宿ると言っています。これは、キリストの体なる教会に生きる自分、自分の信仰の中に生きる救い主ということです。
「つながっている」ということは無力だからできるのです。弟子たちも裏切りと失敗で無力になった。自分に力があればある程、ブドウの幹からは離れてしまいます。逆に自分には自慢すべきものもないし、神のみ心にかなって生きている自信もない。自分は無力だ。罪ある者だ。こうした弱さの認識が、良い実である信仰なのです。
パウロも言っています。第二コリント１１：２３以下。そこを見ると強いようですが、実は弱いのです。特に、３０節でパウロは弱さを誇っています。試練にくじけていない。そのとき、胸いっぱいに神の愛と命を受け、願うことは何でもかなえられる。絶対かなう。イエス様自身が世話する方であったと同じように、弟子たちがそうであったように、パウロのように、歴代の聖徒のようにわたしたちも世話するものに生まれかわせていただくのです。手入れをされ、清い者にされた聖徒であると宣言されたことを感謝して共に喜びの福音を伝えましょう。