閑話休題

古賀野々華さんのキノコ雲についての発言

一昔前のアメリカ人が持っていた日本人の印象は、眼鏡をかけていて、旗を持ったガイドに従うグループ集団の構成人員であり、自分の意見を持たない人々でした。ところが今回、アメリカのワシントン州の高校に留学していた日本の女子高校生がそうしたイメージを覆しました。一昔前だけでなく、現在の日本国内でも、グループ・マインドが支配的であり、グループの意思に反する者は、いじめやパワハラにあってしまうので、忖度こそが生き残る道なのです。この忖度の文化からみると、今回、SNSではっきりと原爆にたいする自分の意見を述べた古賀野々華さんは、あたらしいタイプの日本人だと思いました。なにしろ、古賀野々華さんが留学したワシントン州のリッチランドという町は、長崎に投下された原爆のプルトニュウムを生産した町なのです。そして、彼女が通った高校だけでなく、町のいたるところに原爆のキノコ雲のロゴが表示してあり、町の人はその破壊的な力を誇りにしてきたわけです。彼女はそこで、アメリカ人の友人たちの助けもあって、この勇気ある発言を英語でしたのです。わたしはその発言全部を聞いてみました。三年間だけ留学しただけなのに、流ちょうな英語で、自分自身の意見を明確に表現していました。そして、その発言には、キノコ雲を自慢している人々を批判したり、ロゴの廃止を要求する態度は見られず、自分が個人的に持っている違った視点を知ってほしいということが趣旨でした。そして、それは説得力のある発言でした。第一に、原爆投下の日に彼女の祖父母たちが住んでいた福岡が曇っていなければ、長崎ではなく、福岡に原爆が投下され、祖父母は灰となって消えてしまい、彼女自身は存在しなかったということを語りました。そして第二に、あのキノコ雲は、原爆によって破壊された建物の破片であり、長崎に住んでいた女の人や子どもたち、そして非戦闘員であった市民たちの煙だったのだと語りました。この発言には、リッチランド高校の友達や、町の人々も驚いたことでしょう。しかし、さらに驚く事には、彼女の発言は地元の新聞にも掲載され、多くの友人たちの賛同も得られたのです。日本なら、グループ・マインドに敵対する行為としていじめにあったかもしれません。しかし、その点では、アメリカは自由の国でした。勿論、彼女の発言を聞いても、原爆投下によって終戦を早める事が出来たという肯定論を堅持する者もいたようです。しかし、各人が各人固有の意見を持つ自由と権利があるという社会では、忖度の必要がありません。それだけではありません。古賀野々華さんが発言する映像を見ていて気がついたことがありました。それはもう、周囲を気にして忖度する気弱な日本の女子高校生の表情ではありませんでした。では、何だったのでしょうか。ネイティヴ・アメリカンの女性です。わたし自身がアメリカに留学していた当時、インディアン居住区に識字学習のボランティアに行っていたことがあります。そして、ネイティヴ・アメリカンの歴史に興味をもって、その歴史を調べた事もあります。彼らの祖先は、ベーリング海峡がまだ地続きだったころにアメリカ大陸に渡ったアジア人でした。そして、白人があとからやってきて彼らを虐げるまでは、彼らは自然と共生する誇り高い部族の一員でした。西部開拓時代に撮影された写真も残っていますが、そのどれも、彼らの強固な意志と純粋さをあらわしています。今回のキノコ雲発言をした古賀野々華の強い意思を秘めた笑顔は、あの不屈のネイティヴ・アメリカンの表情を思い出させました。おそらく、もともと秘められていたアジア人としての気高い性質が、自由主義の国の中で開花したのでしょう。偶然にも、彼女の名前は「野々華」でした。イエス・キリストという人物も、アジア人ではないですが、同じように気高い人だったと思われます。当時の権力者を恐れない発言をしたことが聖書に記録されているからです。そのイエス・キリストが「野の花」について語った有名な個所を引用しておきましょう。「あなたがたのうちのだれが、思い悩んだからといって、寿命をわずかでも延ばすことができようか。こんなごく小さな事さえできないのに、なぜ、ほかの事まで思い悩むのか。野の花がどのように育つかを考えてみなさい。働きもせず紡ぎもしない。しかし、言っておく。栄華を極めたソロモンでさえ、この花の一つほどにも着飾ってはいなかった。今日は野にあって、明日は炉に投げ込まれる草でさえ、神はこのように装ってくださる。まして、あなたがたはなおさらのことである。(中略) ただ、神の国を求めなさい。そうすれば、これらのものは加えて与えられる。」(ルカ福音書12章25節以下)不安とストレスの多い現代でも、気高く、不屈の精神をもって生きていくには、神が与えた人間の原点に立ち戻る必要があるのでなないでしょうか。そんなことを、古賀野々華さんを通して感じました。久しぶりに勇気を与えられるニュースでした。

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