西部劇にみる古き良きアメリカ
ユーチューブ西部劇の映画を見ました。1953年の作品ですから、70年近く前のものであって、もはや骨董品でもあります。現代では、CGを使うことなくして、西部劇の時代を再構成することは難しいでしょう。この作品の名前は日本では「騎兵隊突撃」ですが、その名前から想像するような戦闘シーンはほとんどありません。英語のタイトルは「WAR PAINT」であって、アメリカの原住民が戦闘の際に顔に塗った着色のことを意味します。しかし、物語の主要テーマは、戦闘とは真逆であり、騎兵隊の隊長が原住民の部落に和平調停の契約書を届けようとする苦労を描いています。原住民をガイドとして騎兵隊の部隊が砦を出発したわけですが、ガイドの悪意によって道に迷わされたり、水不足に苦しんだり、金鉱の金を独り占めしようとするものがでたりして、騎兵隊隊員は次々と斃れていきます。それでも最後まで残った隊長は、自分が助けたネイティブアメリカンの女性に導かれて目的の部落に到達できたというストーリーです。多くの西部劇では、乗馬での戦闘シーンなどが見せ場になっていますが、この映画ではそれはありません。むしろ、人間同士の葛藤を地味に描いているのです。水がない時の葛藤、命の危険に晒された時の葛藤、利益に目がくらんだ争いなど、人間の欲望に焦点が当てられています。しかし、そうした動きに動じないのが隊長です。責任感としっかりしたリーダーシップで、ならず者集団のようになってしまった隊員たちを統率し、和平契約書をネイティブアメリカンの村に届ける目標に向かって一直線に進みます。そのためには自分の命も惜しくはないかのようです。この隊長を演じていたのが、ロバート・スタックという俳優ですが、実に良い演技でした。部下に対する愛情もあり、かつ不屈の魂をもった騎兵隊隊長に適役でした。調べてみると、このロバート・スタックは、アンタッチャブル(実話に基づいた話)という古いテレビドラマで、シカゴのマフィアであったアル・カポネと徹底的に戦ったFBIのエリオット・ネスを演じた人でした。その役柄にも、買収や脅迫に名動じない、誠実かつ強固な精神を持った警察官があらわされていました。現代の日本では忖度や、利害が行動規範となってしまっていますが、ロバート・スタックが演じた役柄には、昔のサムライのような、自己の利害を無視して、道義を優先する姿があらわされていました。まさに、古き良きアメリカの姿でした。派手なところのない西部劇でしたが、責任を全うするためには命も惜しまない姿が感動的でした。聖書では、こうした責任感は、神の命令に従う姿勢として理解されています。イエス様の架刑の後、弟子たちが迫害されましたが、そうした圧力に屈しなかった彼らが言った言葉が記録されています。「ペトロとほかの使徒たちは答えた。『人間に従うよりも、神に従わなければなりません。』」(使徒言行録5章29節)イエス様が、命令を忠実に守ろうとしているローマの百人隊長の真摯な姿を素晴らしい信仰だとして褒めたのも同じ理由でした。こうした古き良き時代から、視点を現代に移すと、党利党略に走る政治とか、オリンピックの裏にうごめく金脈とか、人間が己の原罪としての欲望に翻弄されている姿が目立ちます。あの騎兵隊の隊長とか、FBIのエリオット・ネスのような強靭な精神をもって動議を貫く指導者を神様が与えて下さるように祈るばかりです。しかし、そういえば、イエス様の時代も、ローマの属国となったイスラエルの暗黒の時代でした。暗闇が深くなればなるほど、光が到来するのも遠くはないでしょう。イギリスの詩人シェリーの言葉にあるように「冬来たりなば春遠からじ」ではないでしょうか。悲しい時代ではあっても、希望はあります。