沈没したタイタニック号の見学ツアーをしようとしたタイタン号が圧壊して沈没
タイタニック号は、今から111年前に北大西洋で沈没しました。事故が起きたのは4月でしたが、氷山に激突して船腹に穴が開き、1500名前後の犠牲者を出してしまいました。この船の名前はタイタニックですが、それはギリシア神話のタイタンに由来します。このタイタンは、ガイヤ(大地)を母、ウラノス(天空)を父とする巨人神族の系譜であり、ゼウスなどのオリンポス山を中心とする新しい神族に対して10年間戦った末に敗れ、黄泉の国であるタルタロスに幽閉されてしまったとされます。タイタニック号がその名前を授けられたのは、この船が全長120メートルもある当時の世界最大の巨船だったからでしょう。この名前は、勿論、ギリシア神話の巨人族を模してつけられたわけですが、その後の巨人族の運命は地底深い地獄であるタンタルロスへの幽閉でした。沈没したタイタニック号も、3800メートル近くの深海に海底に沈んだのです。そこはタンタルロスに似た暗黒の世界でした。静謐な墓場でもあったわけです。しかし、アメリカの探検家が、1985年に発見されたタイタニック号の残骸の見学ツアーを近年考案し、ビジネスを始めたのでした。考案者はリチャード・ストックトン・ラッシュという人でした。今回の事故でも、彼は深海用潜水艇を操縦していました。そして、この見学ツアー用の潜水艇が圧壊してラッシュ氏を含む5名がタイタニック号の近くの海底に沈んだのですが、皮肉にもその潜水艇の名はタイタンでした。さらに、リチャード・ストックトン・ラッシュの妻の曽・曽祖父(曽祖父の一代前)はイシドアー・ストラウスであり、その妻と共にタイタニック号に乗船していた犠牲者でした。不思議な縁です。巨人族タイタンの名前やその運命にしても、その後の出来事にしても、運命の赤い一本の糸で結ばれているような気がします。旧約聖書にも、バベルの塔の話が出ています。自分たちの力を過信した人類の祖先たちは、天にまで届く巨大な建造物を作りました。神はこの作業を見て言いました。「彼らは一つの民で、皆一つの言葉を話しているから、このようなことをし始めたのだ。これでは、彼らが何を企てても、妨げることはできない。我々は降って行って、直ちに彼らの言葉を混乱させ、互いの言葉が聞き分けられぬようにしてしまおう。主は彼らをそこから全地に散らされたので、彼らはこの町の建設をやめた。こういうわけで、この町の名前はバベルと呼ばれた。」(創世記11章6節以下)宇宙や深海、或いは生命工学や人工知能に対する人類の欲望は際限を知りませんが、それに対する静止力もあることを、古代の人々は知っていたのでしょうか。