閑話休題

楳図かずおさん死去

マンガ家の楳図かずおさんが亡くなりました。88歳だったそうです。子供のころ、「へび少女」などのマンガに恐怖を覚えたものです。生前の楳図さんのコメントなどを読んでみると、彼は意図的にそれまでは開発されていなかった恐怖の分野のマンガを描こうとしたようです。そして、楳図さんは自分が恐怖をおぼえる事象を題材にマンガを描き、次々とヒット作を生み出しました。彼自身が語っていることですが、彼のマンガの底流にある怖さのもとは、口と黒と閉所の恐怖だそうです。口とは食べられてしまう恐怖であり、黒は暗黒の死の世界であり、閉所は棺の中のように自由を失った状態です。楳図さんのマンションを訪問した雑誌社の人が書いていますが、閉所恐怖症だった楳図さんはエレベーターには絶対乗らなかったそうです。恐怖を実感するからこそ、恐怖のマンガが描けたのでしょうね。ただ、ここで考えてみると、口も黒も閉所も、すべては死に関係するものです。ですから、恐怖の根底にあるのは、死の恐怖だともいえるでしょう。それを、歴史的にみると、死の恐怖を行使するのは、悪霊とか幽霊です。聖書は悪霊とか幽霊には無関係のように思えますが、旧約聖書にはいくらか痕跡が見られます。それは、ダビデがまだ若かった時に仕えたサウル王に関する記事です。「主の霊はサウルからはなれ、主からくる悪霊が彼をさいなむようになった。」(サムエル記上16:14)そして、彼は禁じられている霊媒の世界に心の支えを求めるようになります。「サウルはペリシテの陣営をみて恐れ、その心はひどくおののいた。サウルは主の託宣を求めたが、主は夢によっても、ウリムによっても、預言者によってもお答えにならなかった。サウルは家臣に命令した。『口寄せのできる女をさがしてくれ。その女のところに行って尋ねよう。』」(サムエル記上28:5以下)そして、彼は当時禁止されていた霊媒の助けを借りて預言者サムエルの幽霊を呼び出してもらいました。越えてはいけない線を越えてしまったのです。そうすること自体が、すでに悪霊の世界に堕ちこんでいるともいえなくはないでしょう。アメリカの大統領選挙の結果を見ても、犯罪者を国家のリーダーに選ぶということ自体が、越えてはいかない線を越えていることであり、すでに悪霊の世界なのだと感じます。それでも、興味深いことですが、聖書は、悪霊が独自に活動しているのではなく、「神から送られている」と明言していることです。ハリー・ポッターの世界は空想のものですが、中世の時代には、多くの人々が悪霊の存在を信じていました。楳図かずおさんの描いたような恐怖の世界が実在したわけです。しかし、そのような暗黒の時代でも、ユダヤ人宗教家であり哲学者でもあったマイモニデスは、悪霊とか亡霊の存在を否定しています。彼は医学も極めた人であり、近代医学の始まる800年前に、精神と病理の関係を解明し、サイコソーマティックな治療方法を考案していました。死に恐怖を覚えるのではなく、人間の意識と身体、そして生命の終焉というものを、恐れなしに、客観視できたのです。ですから、マイモニデスのような人が多い国が仮にあるならば、楳図かずおさんのマンガはヒットしなかったでしょう。同じく、恐怖や敵意によって人心を操作するトランプ氏のような人は大統領に選ばれなかったでしょうね。しかし、本当にこわいことは、神ご自身が悪霊のような存在を送り込み、神に背いたその国を滅ぼしてしまうことがある、ということです。最後に黙示録をみてみましょう。「そして見ていると、見よ、青白い馬が現れ、乗っている者の名は『死』といい、これに陰府が従っていた。彼らには、地上の四分の一を支配し、剣と飢饉と死をもって、さらに地上の野獣で人を滅ぼす権威が与えられた。」(ヨハネの黙示録6:8以下)

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