閑話休題

ウォーターボーイズの思い出

わたしはウォーターボーイズの経験者でした。といっても、埼玉県立川越高校のプールでの、ある夏の出来事なのです。中学校を卒業して川越高校に入って驚いたことの一つは、プールでした。いや、プールなんてどこにでもあるわけです。小学校の時も、中学校の時もプールはありました。25メートルの長さでした。ところが、川越高校のプールは公式プールであって、長さは50メートルあったのです。こんなでかいプールで泳いだことはありませんでした。そして、真ん中のところあたりが特に深くて、背丈を遙かに超えていて、怖いくらいでした。そして、ある夏の体育の授業の時に、その一番深いあたりを泳いでいると、誰かが無礼にも横から飛び込んできたのです。ぶつかりはしませんでしたが、丁度、呼吸するところに大波がきたので、水を飲んでしまいました。運の悪いことに、突然のことだったので、その水が肺の方に行ってしまったのです。まさに、沈没ウォーターボーイズでした。いくらもがいても、息ができません。声も出ません。それに足もたたないくらいに深い部分です。溺れ死ぬとはこういうことだなと思いました。しかし、しかしです、その時に、天啓があったのです。「浮けないなら、沈みなさい。」これだと、思いました。無理に水面に出ようとするのをやめて、水底に足を付けたら、スローモーションのように歩けたのです。そしてそのままプールの横まで歩いて無事に出ることができました。それから、数十年たったある日、ぼんやりとテレビのニュースを見ていたら、川越高校水泳部が、あの50メートルプールで、男子シンクロナイズドスイミングをやっている姿が映ったのです。おもわず、「ウォー!!」と叫んでしましました。浮こうとしないで沈むのが大切なこともあります。息子アブサロムの陰謀によって、都であるエルサレムを、はだしで逃亡したのです。逃亡の途中で、ダビデに恨みを持っていたサウル家の一族の者が出てきて、罵詈雑言を浴びせながらダビデや家臣に石を投げてきたのです。家臣はダビデに言いました、「なぜ、あの犬に、王を呪わせておくのですか。行かせてください、首を切り落としてやります。」(サムエル記下16章9節以下参照)ところが、それに対するダビデの返答が、実にクールなのです。「勝手にさせておけ。主のご命令で呪っているのだ。主がわたしの苦しみを御覧になり、今日の彼の呪いに代えて幸いを返してくださるかもしれない。」沈むときは沈んでいいのだと腹に決めたら、道が開ける気がします。

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