書評

小山真史編集、「『もうダメだ!』と思ったら読む本」、アントレックス、2020年

これはコンビニで買った本です。手軽なので読んでみました。これを読んで驚いたことが二つありました。この本の中には、格言や哲学者、文学者。著名人の短い言葉が列挙されています。おそらく、500くらいの金言になっていると思います。ただ、多くの方々が短命なのには驚きました。坂口安吾は49歳で死亡、有島武郎は45歳、高山樗牛は31歳、芥川龍之介は35歳、三木清は48歳、太宰治は39歳、種田山頭火は58歳、比較的長命だと思っていた夏目漱石ですら49歳、福沢諭吉が66歳、吉川英治が70歳でこの世を去っています。自殺などの場合には仕方がないのですが、彼らが短い人生の中で優れた足跡を残したことが驚きでした。自分は今年の8月で71歳を迎えましたが、その足跡のなさにも改めて驚きました(笑)。ただ、本当に驚いたもう一つの点は、この本の編集者が、だれ一人として著名な女性思想家の言葉を掲載していないことです。大きな欠点だと思いました。編者が女性差別者ではないと仮定して、理由として考えられるのは、マーケット原理です。「もうダメだ」と思うのは圧倒的に男性だという事です。そして、藁をもつかむ思いでこの本を購入するのは男性だろうということです(笑)。コロナ渦においても「もうダメだ」と思う女性は男性より遙かに少ないことでしょう。だから、これは女性には売れない本であり、男性にターゲットを絞った商品だと言えるのです。振り返って考えてみれば、太平洋戦争終結後の混乱の中で、軍国主義を標榜していた男性は茫然自失状態となり、他方、女性は「もうダメだ」とはけっして思わず、買いだしとかに元気に活動できたのは周知の事実です。また、本の主題に戻りますが、この本を買う「もうダメだ」と思った人が、「もうダメだ」と思って自殺した有名人の言葉をまことしやかに拝聴するのも実に滑稽なことです。そして、そんな自分を笑う事が出来たら「もうダメだ」と思うこともなくなるでしょう。

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